ヨハネスブルグの天使たち の感想
読んではいたけど、なかなか感想を文章にすることが難しくて放置してました。
本書はDX9というロボットが落ちることをテーマにした連作短編集で、テーマからもわかるように、何が言いたいのかわかんない。そういうわけで感想が書けなかったわけです。感想が「なんかすごかった」しかないから話の膨らませようがない。
解説には「答えを求めて読むものではない」とあるけどまぁ結局この辺りが落としどころなのかなと思う。作中にも「教訓はなんだ」「教訓はない。あるのは事実だけだ。」っていう部分があったし。いっそ円城塔みたいに「言いたいこと隠してますよ~~」的な雰囲気をこれでもかと出してくれれば頑張って探す気にもなるけど、ない確率の方が高そうなのであきらめてしまった。
中身としては、前半より後半のほうが好み。特に最後の「北東京の子供たち」。これはほんとに個人的な性癖なんだけど、自分はポストアポカリプスがほんと好きで、「北東京の子供たち」はそれが一番強く感じられたっていうだけ(アポカリプスしてないけど)。ポストアポカリプスといえばJGバラードがアポカリプスアポカリプスしてるらしいので今度はぜひ読む所存です。
正直に言うと、二番目の「ロワーサイドの幽霊たち」は内容がよくわかんなかった。なんでもう一度9.11を起こそうとしたのかが謎(スラム化したから?)。誰か解説してくれ。
そういえば本書で著者はポスト伊藤計劃だと言われることもあるみたいだけど、伊藤計劃を求めて本書を読むと失望というか、期待外れだと思う。これはポスト伊藤計劃の定義の問題で、1.脳科学を取り入れて人の意識や理性を扱うSF 2.近未来を舞台にして現代の問題点をあぶりだす という二つの定義があるとすると本書は2の方。ただ2の定義に当てはまる本なんて伊藤計劃以前も以後も変わらずあった(ある)わけで、無理やり伊藤計劃に当てはめるのはちょっとなと思う。結局伊藤計劃が面白すぎるのが悪い!。SFを読むごとに読者のうちに立ち上がってくる伊藤計劃の記憶。これも彼が仕組んだ「計画」の一部なのかもしれない。とかいう何の役にも立たない解説が様式化されるかもしれないぐらいには偉大だと、小生は思いまする。
単純な脳 複雑な私 の感想
結構前によんでたけど、二読目したので感想をば。
前の記事で「つながる脳科学」の感想をかいたけど、あれよりは数倍自分の知りたいことが書いてあった。とにかく脳の不思議なところを門外漢にわかりやすく、それでいて面白さが失われないように解説してる。普通自分が好きな領域の話になると長々と話したくなるのが人の性だと思うけど、実験方法などの過程を必要最小限にして結果と考察に重点をおいていて、退屈な講義にならないように工夫したんだろうなと感じられる。
自由意志の議論でよく引き合いに出されるリベットの実験も本書は扱っていて、人間には自由意志ではなくて自由否定があるんじゃないかというのはとても興味深かった。
感じる/感じない 自分/自分じゃない みたいな哲学的な話題が満載で、SF読む人なら読んでおいて損はないと思う。そういえばいい加減SFの有名どころを読み進めなければ。
つながる脳科学 の感想
脳科学からみた心の仕組みや倫理について興味があって読んだけど、正直知りたかったことはあまり書いてなかった。
まず本書の形式は脳科学の専門家がそれぞれ自分の研究をバラバラに語っているので、前の章で解説された語句がまた解説されてうっとうしいということが何度もあった(何回オプトジェネティクスとシナプスの解説でてくんだよ!)。その分の記述をへらしてほかのところに紙面を割いてほしかった。本書はいわば科学者が自分の論文を一般向けに書き直したのを集めた構成になっていて、実験の結果から考察を深めていく感じではなく、実験の手法に焦点が当てられていて、肝心の「心の構成」というところはあまり触れられていなかった。しかも少ないページで解説しようとするので、わかりにくいところも多かった。
ただ内容としてはそこそこ面白かった。こんな感じで実験やってるんだなーとかわかる。Amazonみたいに星をつけるとしたら星3.5かな?
言語学の教室 の感想
前回「ビックデータコネクト」で一息ついたので、また教養書に戻った。はじめてkindleでよんでみたんだけど、寝っ転がりながらの読みやすさが紙の本と段違いなのと移動中にさっとスマホ出してすぐ読めるのでとても使いやすい。kindle readerを買おうかなとも思っているけど、今のところ不満はないのと、まだこなれてない印象があるのでとりあえず保留中。
で、「言語学の教室」だけど、とてもわかりやすかった。対談形式になっていて、新しく出てきた概念を掘り下げてから次に行ってくれるので理解しやすくなってる。普通の教科書的構成だと、概念をポンと出して次に行くので、用語が定着してなかったりして、表面的な理解しかしてなかったり、頻繁に戻ったりということが起こるけど、本書はそういうことが少ない。一般人相手に講義したらこんなに立ち止まることはないだろうけど、本書は相手が言語哲学者で、鋭い質問をバシバシしてくれるので、新しい概念を持ち出す意義などがわかりやすい。
僕は言語学には特にイメージは持ってなくて、そもそも何やってるのかすら想像できなかったけど、今回の読書で大まかな雰囲気はつかめた。読んでいる分にはまぁ面白かったけど、自分がやるのは勘弁したい。言語学はひたすらある言語における法則なり理論なりを探していくのだが、いろいろな事例を広く説明できる理論を思いついても、物理や数学のようにその理論で未だ起こっていない事の予測ができるわけじゃないのがどうにも徒労に思える。ただこういう言語学の知見はコンピュータで言語を解析するとき(冗長な言い方だけど適語がおもいつかない・・・)も使えるんじゃないかと思う。実際に自分でやれはしないけど。
最近読んだ「戦争広告代理店」とか「虐殺器官」で描かれていたことは(当たり前だけど)言語学で説明できるんだろうと思う。「ethnic cleansing(民族浄化)」が絶大な影響力を持ったことや、逆に戦争の現実を多い隠す迂遠な表現が使われたり(ぱっと例が出てこない)。言語学なんて何の役に立つんだ、とか、哲学なんていらないとか以前の自分は思っていたけど、どんなものでも使う人によって玉にも石にもなるんだなぁ。
ちなみに、付録についていた対談書き起こしの原文をみて笑ってしまった。脇道にそれまくり。これを本にするのは骨が折れただろうなぁと思う。あと、さらに言語学を学びたい人向けの文献案内が親切でよい。
ビックデータコネクト の感想
最近重い本が続いていたので、普通のエンタメ小説を読んでみた。
やっぱり藤井さんの小説は面白い。ほんとによく練られてる。正直練られすぎててわかんない部分もある。個人情報の取り扱いが云々とかはわからなかった。読んでるこっちがわかんないのに藤井さんは何をどうして作れたのか全く想像がつかない。
本書も例によってSFガジェット(現実にもあるけど)がたくさん出てくるわけだが、今作はプログラムとかネット関係の用語を知らないと読むのに詰まると思うので、あまり初心者向けじゃないかも。まぁそこらへんを乗り越えても死ぬほどめんどくさい法律用語が出てくるのでラノベのように簡単には読めない。
自分の読書順では「公正的~」と「gene mapper」そして今作と、つづいて中国が出てきたわけだけどほんと藤井さんは中国が好きだな。森見登美彦が京都をさんざん荒らしまわってるのと同じで、中国には謎を全部吸収してくれる性質でもあるのか。と書いてみると確かに欧米はルールがちゃんとしてて透明性があるイメージがあるのでやっぱり事件を起こすとしたら中国なのかもとは思った。
終盤の謎が収束していき、トラブルが続々と発生してくるスピード感も手に汗握ってとても面白かった。
戦争広告代理店 の感想
最近戦争に関するドキュメンタリーを色々読んでいるけど、そのすべてが、自分が今まで全く知らなかった領域を教えてくれるので自分の価値観がぐわんぐわんと揺れている。本書もそのうちの一つ。
一番読んでいてためになったのが、いかにアメリカの政治が行われているかというところ。アメリカは官僚の入れ替わりが激しくて、大統領交代ごとに能力のある人が民間と政府を行ったり来たりするのが普通で、その際に大統領のコネが物をいうらしい。こういうことを聞くと、一般市民としては同じことを日本でもやってくれよと思うけど、実際自分が官僚だったらこんなに不安定な組織に行きたくないし、頑張って東大でたあとはもう新しいことなんてせずに去年と同じことをして給料をもらいたいだろうとは考える。さらに言えば赤の他人でしかない国民のために自分の職を危うくするようなことは誰もしたくないだろうし、今の日本の構造はずっと続くんだろうなとも思う。
この本では徹底してボスニア紛争の広告面での経過を描いているけれど途中から(というか最初から?)誰も戦争で苦しんでいるひとたちを助けようとはしていないのが恐ろしい。ボスニア側はセルビアを非難するばかりで、セルビア側も同じ。結局勝ったのは宣伝がうまかったボスニア側で、負けたセルビアは世界から諸悪の根源の烙印を押されて国連を追放。民族対立はそのまま残るという何の解決にもなっていない処置がなされておしまい。先進国を仲裁役にした和平会談をやっても先進国は世論におされていやいや出てくる始末。
個人の意見としては、こんなことになっているのは世界が大きくなりすぎたからなんじゃないかなーと思う。自分の隣で事件が起こらない限り大体は対岸の火事でしかないわけで、ちょっとでも複雑だとすぐに興味がなくなる。実際俺はいまだにモリカケがなんなのかわからないわけだし。世界なんて個人が把握するにはあまりにも複雑で面倒なんだと思う。
本書によると「民族浄化」というキーワードはボスニア紛争時に「バズワード」となったらしい。殺戮も虐殺も大体同じことを指しているのに聞き手の印象ががらっと変わって、思考が特定方向に誘導されるのはとても面白い。このブログではしつこいぐらい言及している「虐殺器官」の世界は全然フィクションではなくて、現実の延長にあるんだということを実感した。
この本を読んで、心底政治の世界は面倒だと思った。こういう裏側まで知って、正しく物事を判断しようとすると限りなく面倒なので、どうせゆがんだ事実しか知れないならいっそ政治を追うのはやめようかなとも思う。
鴨川ホルモー の感想
感想を一言でいうと「なんだこれ」。
内容としては真面目に不真面目をやってる大学青春エンタメ小説で、京都が舞台。俺にとっては真面目に不真面目で京都といえば森見登美彦が真っ先に思い浮かぶ。パクリだとかいうつまらない意見を言うつもりはないけど、やっぱりどうしても比べてしまうのは許してほしい。個人的には森見のほうが好きかなぁ(まだ万城目学は一冊しか読んでないけど)。森見作品のほうが、笑えるところが多かった気がする。
あと俺はどうしてもファンタジーにいちゃもんをつけたくなる癖があるようで、鴨川ホルモーみたいな設定を出されると、少し白けてしまうのが今回確信できた。そういうわけで「夜は短し歩けよ乙女」より「四畳半神話体系」が好きだし、「聖なる怠け者の冒険」より「恋文の技術」のほうが好きである(鴨川ホルモーの感想なのに森見作品で申し訳ない)。
肝心の鴨川ホルモーに戻ると、真面目に不真面目やっててとても好き。吉田代替わりの儀とか高村の髪型とか主人公の性癖(?)とか、斜め上の発想なのがいい。前述したとおり、少しファンタジックな設定が俺と合わなかったけれど、大方は楽しめた。個人的に気に入ってるのが早良さんとの顛末で、考えすぎて動けなくなる頭でっかちの大学生が面白かった。こういうぼんくら大学生は森見作品にもよく出てくるのでどうも惹かれるものがあるみたいである。
深く考えずに頭空っぽにして笑える小説だと思う。
誰にも書けなかった戦争の現実 の感想
本書はWWⅡについてのノンフィクション。ブックオフで200円で売ってたので読んでみたけど値段以上の価値があった。
WWⅡに関するドキュメントは全く読んだことがなくて、これが初めてだけど、非常に詳細かつ広範に調べられていると思う。まず本がとても分厚い。ハードカバーで500ページある。また、著者はWWⅡ従軍者で、内容にも信頼が持てるんじゃないかと思う。
これを読んでわかったのが、戦争と一言でいうけど、その全体像をとらえるのは全く簡単じゃないこと。最近北朝鮮がどうとかアメリカがどうとかできな臭いけど、北朝鮮なんて戦争してつぶしてしまえじゃなくて、戦争は想像の埒外にあると自覚するのは70年戦争してない国の国民として大事なんじゃないかなと思う。
歴史の教科書と本書が決定的に袂を分かっているのは、本書がもっと戦争にかかわった個人に接近して考察していること。例えば頻発した新兵の誤射とか、とどまるところを知らなかった噂、戦争に直接参加していなかった市民たちの心理などなどについて証拠と理由、実際にあった出来事を明示して考察していること。ただ後半のほうになると当時のラジオや本など、文化的な面を取り上げているが、これはむしろ詳しすぎて前提知識ないとよくわからないと思ったので2章分(50ページくらい?)くらいは飛ばした。
全く戦争になじみのない平成生まれとしてはどの章も驚くことばかりでそのいちいちを上げていくと本書がもう一冊出来上がってしまうぐらいだけど、一番衝撃的だったのは最後の章「睾丸にも弾はあたる」。大砲の破片ではなく、大砲で吹き飛ばされた仲間にあたって怪我をした兵のエピソードとかとか。かなり心にくる。
ただ唯一の欠点が、「写真や図が全くない」こと。ポスターや写真が本文で紹介されてるけど実物がないとイメージがわきにくい。まぁポスターに使われている広告的技法じゃなくて、それがもたらしたor表した影響について述べているのでなくても構わないものではあるかもしれない。
戦争は一括りにかくかくしかじかと型にはめることができないということに気づかせてくれたという点で貴重な読書体験だったと思う。