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アルジャーノンに花束を/ ダニエル・キイス(小説) 感想

 かなり面白かったです。

 

 

毎回こういう登場人物の内面に焦点をあてた作品を読むと面白く感じるのですが、なんでなんでしょうね。感想を書くにはどこが面白かったと言葉にしなければいけませんが具体的に表現しようとするとなかなかできないのです。

 昔から登場人物の心の内側を主軸においた作品は存在します。こころ、罪と罰夜のピクニック(これしか思いつかないのですが汗)。こういった作品が面白い理由として、自分の経験したことがない世界を体験できるから、というのがあるんじゃないかなと思います。

 本書で言えば手術を経て急激に知能と情緒が発達した知的障害者が自分の過去と現在、そして未来と向き合いながらアイデンティティを確立していくのを見ているのが面白いということになります。誰でもチャーリーのような経験はしたことがあるんじゃないですかね。何となく友達の輪に入れなかったり、あの時こうしていればよかったと後悔したりとか。読んでいるときに具体的な記憶をイメージしている人はいないと思いますが、何となく感じていた感情をはっきりと言葉に表してくれる快感というのも面白く感じる理由なんじゃないかなと思います。アルバムみて「こんなのあったねぇ!」みたいな快感ですよ。

 こういう(月並みないいかたをすると)知識欲の刺激が小説を面白いと感じる所以だと思うのですがどうでしょうか。本書はそういう要素が多いから面白いということになります。小説はフィクションだから読む意味は全くなく、ノンフィクションのほうが価値は高いのである、とはならないのもこういう理由からじゃないですかね。

 知識欲が云々とは別に、本書にはとても参考になる言葉が多くあります。

たとえお話の世界だってルールがなくちゃならない。部分部分が首尾一貫していて、ぴったり整合しなくちゃいけない。こんな映画は嘘っぱちだ。無理やりつじつまを合わせている。脚本家か監督か、だれだか知らないが、プロットにそぐわないものを話の中に入れたがるからだ。だから不自然なんだ。-p128

なにもきれいなレッテルを張ってもらわなくてもいいんだ!問題はこの実験にかかわる前には友達がいたということなんだ。-p173

誰でも、なにかを軽蔑するもんじゃないですか。-p265

もう一番目とかド正論ですよね。万事筋が通っている本書で語られるので説得力もひとしおです。self reference engine は全く時系列も登場人物も世界の法則も整合性がとれていませんが、筋を通さないという筋を通しているのでセーフです。最近のアニメ実写化ラッシュとかまんま当てはまりますよ。そんなに見たわけじゃないですが。あと二つはなんか印象に残ってます。

 ひとつ文句をつけるとすれば翻訳に少し違和感があるとこですかね。チャーリーが急に「~するのはおよし」とか「お入りなさい」とか言いだします。でもまあこんなのは些細なことです。そんなに頻繁に出てくるわけじゃありません。

 名作といわれるのも納得です。タイトルの意味が分かると感動できます。読んでよかったです。