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self reference engine/ 円城塔 感想

 

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

 

  とても綺麗な小説だったと思います。self reference engine を読もうかどうか迷って、もしくは読んでもよくわからず、ネットの書評を漁っている方は「なんだかよくわからん」という感想をあちこちで目にしたのではないでしょうか。私もその一人です。しかしわからないからといって読む必要がないかというとそれは違うのです。

 私が最初に本屋でこの本を見つけて立ち読みしたときは、なんだか小難しいことを並べているだけで中身はなさそうだと思い本棚に戻しました。最初のプロローグを読んでくれればわかると思いますが、文として意味を成しているが文章としては全く意味をとることができません。当時の私は(今もですが)やるべきことの合間を縫って本を読んでいる状況だったのでとにかく手っ取り早く感動をもたらしてくれるものを探していました。そんな状況で言葉遊びのような状態を呈している本を読む余裕などありませんでした。しかし二度目にこの本を立ち読みしたときはなにやらちゃんとしたストーリーがありそうなことが判明。本を選ぶ時間すら惜しかったこともあって結局買うことにしました。

 この選択は正解でした。読んでみると言葉遊びという感想はぬぐい切れませんが、まぁそれでもいいかとなりました。投げやりになって感想を放棄しているのではなく他の点で魅力的だったということですよ。

 まず何を言ってるのかわからないがとにかく面白かったです。多次元宇宙とか無限次元時空間円柱だとか時空爆撃だとか心躍るSF用語がそれっぽい文脈と解説付きで書いてあるだけで楽しかったです。これが知識のない人が書いたのだったら「適当な用語と説明でごまかしてんじゃねえよ」となりますが、因果律の破綻した世界を徹底的に(わかるようなわからないような方法で)描いているのですんなりと受け入れることができました。

 そして思考実験めいてくるストーリーの展開も好きです。今現実に存在している相手が実は絶滅していたり、なにが何やら全く収拾が付きませんが存在しているということや進化しすぎた計算機に対する考察(屁理屈かも?)が何重にも掘り下げられていて、狐につままれている感はあるものの、とても楽しかったです。

 総括するとなんだかわからなかったが面白かったとなります。以前の私なら意味がわからず読み捨てるような感想ですが実際にそういうこともあるのです。まだまだ読み取れていないところがあるのでもう一回読みます。その時は記事を更新するつもりです。

 

追記 

 

 二回目読んだので続きを書きます。最初に書いた感想今読み返すと滅茶苦茶なこと言ってますね。消してもいいのですが戒めとして残しておきます。

 読み返してみるとこの小説はどことなく詩に似てるんじゃないかなと思いました。詩なんて真面目に読んだことがないので想像と漠然とした印象で語るのをお許しいただきたいのですが、婉曲的な言い回しやテンポよく進む(箇所もある)文章が詩的に感じる原因なんだと思います。時間の前後が逆転した世界のせいもあって、読んでる間長い一編の詩を読んでる感じがしました。

 あと比喩がうまいです。たまにグダグダ続く比喩を見ますがああいうのとは違って必要だからある感じがします。比喩での対象の置き換えとか抽象化とか簡単化とかうまい気がします。特に本書ような難解なものでは比喩のありがたみが増します。

 また所々に挟まれるユーモアのおかげでよくわからない場面が続いたとしても何となく面白いという現象が起こります。細かいオチが散りばめられているおかげでただの理屈をこねまわすだけの小説にはなっていません。まさに諧謔を弄んでます。「coming soon」なんかかなり笑えます。恥ずかしながら、初見の時は全く意味が分からず「なんかかっけー」と思って文字を追っていたのですが、二回目だと壮大な自虐ネタだということがわかりました。途中で急に予告編を入れて自分で突っ込むという下手すればダダ滑りのネタを見事に完成させています。そしてなんかかっこいい感じで終わらせます。私の人生で一番カッコいい予告編です。

 円城塔は雰囲気を作ることがかなり上手なんじゃないでしょうか。よくわからない理屈で煙に巻きいい感じの雰囲気で終わらせることがままあります。「フロイト」はその典型ですね。

 また、二周もするとだいぶストーリーがつかめました。ちょこちょこ挟んである伏線とか回収していくの楽しかったです。特に終盤の理解度が違います。「return」なんてほんと感動しますよ。今まで登場人物の一人だと思っていたリチャードが読者と同じ視点まで登っていて、穏やかだけど大事な人がいない生活を受け入れてからのからの奮起とか胸が熱くなります。やはりタイムリープものはいいですね。感情移入がしやすいです。

 

 追追記

 

arark.hatenadiary.jp

 同じような感想をまた書きました。