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屍者の帝国/円城塔×伊藤計劃 感想(小説)

 かなり難しい本でした。私は一読しただけでは物語の表面すらさらえなかったので二回読みました。

  まず読んで思ったのが文章が読みにくいことです。比喩が使用されているのはいいですが、内容が込み入っててそもそも比喩かどうかわからないということがままありました。そして後で種明かしをするパターンが多く、自分が意味をとれなかった文章を後で解説あるだろ、と流し読みして実は説明済みのことだったっていうのも頻発でした。明言を避けているところも多いので違う解釈をしちゃったり。ハダリーが人造人間だったとか二回読んでも気づかなかったんですけど。今でもわかんないです。でもそれはあなたの読解力がたりなかっただけで作品を貶める根拠にはならないよね?というご指摘はごもっとも。ちゃんと内容に関した感想を書きます。
 全体的な感想としては、難解だけどわかると面白い、です。初読のときは全くストーリーも登場人物の背景も記憶できなかったので理解があやふやでしたが、もう一度よんでみると大まかな展開は頭に入っていたので、細かい読み取りができました。伏線もりもりで忘れたころに明かされるのが多いので追うのが大変なのでメモするか二回読む前提でいくといいです。ちなみに屍者の帝国には色々な人物が出てきますが私が一番すきなのはバーナビーですね。典型的な脳筋キャラなのですが、いちいち言動が面白かったです。そしてワトソンの皮肉交じりの突っ込みも。仲はいいけどお互い憎まれ口をたたいている関係なのが好きです。下着じゃないから恥ずかしくないは笑いました。
 ただ、面白いのは面白いのですが私はどうも設定になじめませんでした。具体的には菌株とか情報の物質化、屍者操作技術とかです。今まで屍者技術があるとはいえ現実的な路線で歩んできていたのに、後から設定が付け足された感がありました。虐殺器官とハーモニーは未来ではあるがあくまで現実として書かれていたので、その二つと比べてしまったのかなーと思います。
 とは言いつつも終盤の、どんどんと自分の意識に疑念が生じてくるあたりはやっぱり面白いです。人類の意思は菌株が作り出したもので、純粋に人に由来する意識は存在しないという話を深めていくところはさすが円城塔だな、と思いました。私だったら「私のこの意思は本当に自分のものなのだろうか」ってかいて終わりですよ。これ以上思いつきません。フライデーが「君には私が見えているのか」とノートに書くシーンがありますがこれはクオリア的な意味で見えているのか、自分が見ているものは本当に自分の意識が認識しているのだろうかという問いを含んでいるんでしょうね。屍者は物を認識できず、生者だけが認識できるとする根拠はどこにあるのか。
 上で読みづらいとか設定後付けとかいろいろ言いましたが、終わり方は非常に好きです。地球一周する冒険を一緒にしてきたと思うほど感情移入してるのに、ワトソンが自分で自分の旅に幕を下ろす寂寥感といったらありません。そして対照的に意識を獲得するフライデー。あとがきまで好きです。賞賛は屍者に、嘲笑は生者に、っていうのが心に来ました。どこが良いのか、他にもいろいろ言葉で表そうと頑張ってみましたが、結局は雰囲気が好きだという話なのでここらへんでやめときます。
 人間の意識っていうメインテーマのほかに「可能なことはいずれ実現される」ってのも小テーマの一つみたいですね。屍者の帝国では(倫理的に禁じられているが)可能なことは~~、と否定的な意味に使われていることが多いです。
 あとカラマーゾフの兄弟の登場人物が出てきますが、これが結構感動しました。カラマーゾフは未完でおわった伝説の小説なのですが、その登場人物が好きな作家の小説で復活とか感動しますよほんとに。続編は色々な想像がされているのですが、その中にロシアに対してクーデターを起こすっていうのがあって、それを踏まえてるという点だけでも興奮しました。
 伊藤計劃とは違うところもありますがとても面白かったです。