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虐殺器官/伊藤計劃 感想

概要

  虐殺器官とは2007年発表のSF小説で、伊藤計劃のデビュー作です。最近アメリカで実写化されることが決まったようです。(wikipedia調べ)
 端的に言うとSF初心者の私が読んでも面白い名作で、読んだ後はなんか頭よくなった気がします。

感想

    まず僕がいいたいのはアレックス。あんまり言及されてませんけどこれカラマーゾフのアレクセイですよね?熱心なキリスト教徒でアレクセイをもじった名前とか絶対意識してるでしょう。屍者の帝国でも確かイワン出てきましたし筆者がカラマーゾフを読んでるのは間違いないです。カラマーゾフの兄弟は続編があることが明言されているのですが、残念ながらドストエフスキーがなくなってしまったため幻となりました。そんな経緯のあるカラ兄の登場人物が時を経て現代によみがえるとか胸熱ですね。
 ドストエフスキー繋がりで言うと、虐殺器官は現代の「罪と罰」とも言えると思うんですよ。罪と罰はおおざっぱにいうと罪を犯した主人公が苦悩するっていうストーリーなのですが、虐殺器官も似たような構造がみられます。痛覚マスキングや感情適応調整を施された人殺しは自分の殺意によるものなのか。任務だからと任務中の殺人を考えないことにして責任をのがれていたシェパードですが、登場人物との対話もしくは死を通じて自分の罪を自覚し、罰を求めるようになります。これは護送列車襲撃後にはっきりとあらわれています。
 また、作中の進化の話ですが、大体「利己的な遺伝子」にのってます。初見では進化とか遺伝子の話が表面的にしかわからず理解があいまいでしたが、利己的な遺伝子を読んだあと虐殺器官を読み直すと進化の話が実感を持って感じられました。読むのがめんどくさい人のために簡単に解説すると、進化というのは種ではなく個が主体になって起こるということです。例えばここに夫婦が離れてくらすライオン(別居型と呼びましょう)がいたとしましょう。この別居型のライオンの中に夫婦が一緒に暮らすライオン(同居型と呼びましょう)がたまたま生まれたとすると同居型の夫婦は明らかに別居型のライオンに比べて有利になります。有利とは自分たちの子孫をより残しやすいということです。同居型のライオンの子供は別居型の子供より同居する性質を持つ可能性が高いので世代を重ねるにつれてライオンの中には同居する性質が広がっていきます。ここで重要なのは「種にとって有利だから」同居型が広まるのではなく、「同居型が子孫を残しやすいから」同居型が広まるということです。同じ理由で同種の動物は仲良くしあうし、人間に良心(さらに言えば虐殺の文法)が生まれた、ということをバーでのルツィアは語ってます。
 主人公の最後の心変わりですがこれに関してはいろいろなサイトで考察されてますね。本文中ではアメリカで虐殺を起こすことで自分の罪を背負おうとしたと書かれていますが伊藤計劃のブログでは他の解釈もあることがほのめかされています。
 そもそもなんでアメリカで虐殺を起こしたのか考えてみます。自分としてはジョンポールの意思を継ぐことで自分を罰しようとしたんじゃないかなーと思います。ジョンポールは自分の罪を認め完全に理性的な判断で虐殺をしたことが度々強調されていますがこれは自分の罪から逃げていたシェパードとの対比なんだと思います。ルツィアとの最後の会話でジョンポールは自分の罪を告白することを決めますが結局殺されてそれはかないませんでした。シェパードも「色々なものがはっきりと見える気がするんだ」と言った先のこれですからね。ルツィアの遺言をかなえられなかった自分への罰、そして復讐としてアメリカを混沌に陥れるというのは十分あると思うのです。
 もう一つはアメリカに死者の国を作ろうとした説。これは自分で考えたのではなくネットに書いてありました。なかなか納得できる説です。死者の国は落ち着くと書いてありますしね。

 全体として本当に面白い小説でした。友達二人にも読んでもらいましたがどちらにも好評でした。ゼロ年代ベストSFの名は伊達じゃありません。ぜひ読んでみてください。