The indifference engine/伊藤計劃 感想
概要
この本は9つの短編からなる短編集で、伊藤計劃の創作の軌跡をたどることができます。彼の著作が少ないことを考えるとかなり貴重です。
感想
すべての作品について感想を書いていきたいのですが、元ネタを知らないものについはて簡単な感想にとどめます。
女王陛下の所有物 On Her Majesty's Property
これは漫画ですね。007のオマージュになっていて、後ろのFrom the Nothing ,With Loveの一場面をM側から描いたもので、ここで設定を軽くつかんでおくと後で楽に読めます。
The indifference engine
はい、表題作です。これは自分にとってかなり衝撃的でした。ルワンダ大虐殺をモデルにした作品で、先進国の介入と終わらない憎しみに振り回される少年兵にスポットがあてられています。ルワンダ虐殺とはもともと共存関係にあったフツ族とツチ族が対立し、約100日間の間に50~100万人が虐殺されたという凄惨な事件です(数字はwikipediaより)。作品中に虐殺の様子が描かれていますが、これは創作でも残酷性を増すための誇張でもありません。実際にルワンダではプロパガンダによって隣人が恐るべき殺人鬼となったのです。
ちなみに興味がある人はルワンダ虐殺を生き延びた方の本が出ているので読んでみてください。「ルワンダ大虐殺/著レヴェリアン・ルラングァ」という本です。
「僕の戦争はまだ終わってない」というセリフは印象的でしたね。先進国が戦争を終わらせたって憎しみは消えてないんだってのを感じました。そういうことは知識としては知っていましたが、あぁなるほど、とどこか腑に落ちた感があります。これ結構重要なんじゃないでしょうか。第二次世界対戦以降どっかで戦争すると大体どっかの国か組織が介入してきますが、アフターケアもそこそこで撤退ってのはあまり意味がないと思います。そういえばいつだったかamazonの新書ランキングに「戦争にチャンスを与えよ」って本があがってて、あらすじ見た限り「戦争は気のすむまでやらせろ」「介入は50年統治する覚悟で」とかなかなか過激なことが書いてありました。戦争放置は賛成出来かねますが介入は覚悟をもってってのは理解できます。まぁ大層なことかいてる私も何もしないんですけどね。
「美しい種の家」に戻るシーン。あそこで主人公は自分の戦争が終わってないことを自覚する重要な場面なのですが、理由と目的がよくわかんなかったです。私が読み取れていないのか、それとも作者が誤魔化したのか。前者の方が圧倒的に確率が高そうなので頑張って考察してみます。
あのシーンのあと、主人公たちは「人種の区別をする」国軍と対立し、ヘブンの人間を皆殺しにするという目的のために活動しています。ここで白人はヘブンにいないと書いてあるので白人にたいする復讐ではないでしょう、つまり主人公たちの目的は現体制の崩壊じゃないでしょうか。奪取でないなーと思います。と無理やり考察をひりだしてみましたが自分でも納得してません。わかる人いたら教えてください。
Heavenscape
フォックスの葬送
セカイ、蛮族、ぼく。
ATD:Automatic Death
From the Nothing ,With Love.
解説
一番意味わかりませんでした。初見で意味がとれた人は敏腕現代文塾講師でもやるといいでしょう。
屍者の帝国
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお続きかいてくれえええええええええええええええええええええええ
まとめ
ここまで読んだ人は実は私が何も理解出来ていないことに気づいたでしょう。私の読解力は文章中に名言されていることしか読み取れないレベルなのです。批判は存分に受け付けます。
全体を読んだ感想としてはとても満足度が高かったです。そもそも私がSFと戦争系にふれて来なかったので新鮮感が大きかったです。伊藤計劃は本当すごい作家だと思います。まず作品のテーマ。哲学的でそういうのに縁がなかった人間としてはすごく興味をそそられます。そしてストーリー構成。ラストに伏線を回収するのは単純に面白いですし、テーマを掘り下げるのにとてもいい働きをしてると思います。そして作者のありえないほどの知識量。随所に固有名詞がでてくるのですがこれがまた現実感をまし、文章に説得力を持たせています。たとえばHeavenscapeにマリーセレスト号ってのが出てくるんですがこれ航海中の船から乗客が突然消えた事件らしいです。しってました?こんな感じの小ネタが至るところに散りばめられています。この圧倒的な知識がなければテーマとストーリーは思い付いたとしてもなかなか文章として書くのは難しいでしょう。
読む価値大いにありです。迷ってる人は是非読んでみてください。