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このブログは主に親指シフトを用いて書かれています

華氏451度 の感想

 とても面白い。こういう思想的に厚い本は好き。
 まずファイアマンが本を燃やす職業だっていうのがいい。とても皮肉が効いていて、一歩下がって物を見てるようなかっこよさがある。
 内容の柱としてはもちろん本の価値についてなんだけど、ここがとてもよくできている。ファイアマン側の論理ももっともだし、本を擁護する側も一理ある。ぶっちゃけると自分もファイアマンと似たような(しかし程度はひくい)ことはしばしば考えてたんだけど、俺が考え付くようなことはそりゃ誰かがやってるよなと思った。結局本の価値に対しての明快な解答はないけど、まぁそんなのはどこにもないんだと思う。自分達がそれを考え続けることに意味があるのではないか。
 重要なのはこれがディストピアを描いてはいるがその大元はユートピアへの志向だということ。みんなの人権を最大限守ろうとする現代は、本書でかつて目指されていた(そして目指されている)ユートピアと全く同じである。人権がいらないなんて絶対に言えないけど、人権擁護という正論を盾になんでもかんでも推し進めると良くないのかなと思う。かつて草薙少佐は言いました「人権は聞いたことはあるが見たことはない」と。あんまり盲信するのはよくないかも。
 こうしてユートピアディストピア論を展開してるともうユートピアディストピアの境界なんて無いんじゃないかと思う。そこにあるのは文体や描写の好悪の違いだけで、端的に言うと好きか嫌いか。harmonyでもユートピアが悪し様に描かれていたし一九八四年も単なるディストピアじゃない(はず。うろ覚え)。
 本書も古典SFの例に漏れず、イコン的なガジェットを使ってるわけだけど、こういうのをみると現実がかつてのSFを追い越したんだなーということを確認する。
 終盤で「わたしがボルヘスです(うろ覚え)」とか「あの町はみんながロールズだよ」とかいうくそかっこいい台詞がでてくるんだけど俺もこんなこと言ってみたい。

感想を書く本

道化師の蝶

オブザベースボール

華氏451度

パーマーエルドリッチの三つの聖痕(途中)

 

 ただ道化師の蝶とオブザベースボールは図書館で読んでもう返してしまったので感想は書かないかも。読んだことのある人ならわかるとおもうが、感想が書きづらいことこの上ない。

 あと自分にはディックは合わないんじゃないだろうかと思う。「パーマー~」がとにかく面白くない。高い城の男も合わなかったし。とにかく「アンドロイドは~」を読んでから決めたいと思う。

 最近このブログの方向性についてよく考える。感想を書くのか書評を書くのか。感想なら自分の思ったことを言うだけだからまだ身の丈にあっているが、書評となると途端に崇高で意味のあることを書かなければと思うし、そもそも書き方がわからない。あらすじを追って行っても意味はないだろうし。やはり書くからには新しい知見を持ち込みたい。

 

 

小説 君の名は の感想

 ブックオフで100円だったので買ってみた。いやー読みやすくて良かった。最近は理屈をこじらせた変な小説ばっかり読んでるので、リフレッシュできた。

 自分は「君の名は」が公開する前から新海ファンで(古参アピ)君の名は、にももちろん期待していたけど、まさかあんな大きなブームになるなんて思ってなかった。新海作品なのに珍しく広告打ってるなーとは思ったけど。

 で、中身だけど、やっぱり「君の名は」は映画が一番かなーと思う。「君の名は」はファンタジー青春映画なわけだけど、自分はファンタジーをみると色々作者の(恣意的な)仕掛けが気になってしまう質だから、そこらへんを勢いで流してくれる映画の方が余計なことは考えずに楽しめた。流れということでいうと、小説は地の文が気になった。本書は一人称小説なんだけど、走って息も絶え絶えの状況で「息が切れ、ひざが笑っている」なんて冷静に解説されると違和感を感じる。やっぱり人ってそんなに言葉で生きてないよね。「苦しい」とか「愛しい」とか、しいて言葉にするとしたらそのぐらいの単純な感情しかないと思う。

 考えてみると今まで普通に読んでいた一人称小説はどれもこれも感情をわざわざ言葉にせず地の文は情景描写に徹していた気がしなくもない。パラパラと確認してみると「ヨハネスブルグのの天使たち」は感情を直接ではなく行動や発言を用いて間接的に描いてることが多いように感じる。

 さんざん言ったけど、中身は普通に面白かったし、映画では断片的にしか描かれていなかったところも掘り下げられていて、ファンブック的な楽しさがあった。

ヨハネスブルグの天使たち の感想

  読んではいたけど、なかなか感想を文章にすることが難しくて放置してました。

 本書はDX9というロボットが落ちることをテーマにした連作短編集で、テーマからもわかるように、何が言いたいのかわかんない。そういうわけで感想が書けなかったわけです。感想が「なんかすごかった」しかないから話の膨らませようがない。

 解説には「答えを求めて読むものではない」とあるけどまぁ結局この辺りが落としどころなのかなと思う。作中にも「教訓はなんだ」「教訓はない。あるのは事実だけだ。」っていう部分があったし。いっそ円城塔みたいに「言いたいこと隠してますよ~~」的な雰囲気をこれでもかと出してくれれば頑張って探す気にもなるけど、ない確率の方が高そうなのであきらめてしまった。

 中身としては、前半より後半のほうが好み。特に最後の「北東京の子供たち」。これはほんとに個人的な性癖なんだけど、自分はポストアポカリプスがほんと好きで、「北東京の子供たち」はそれが一番強く感じられたっていうだけ(アポカリプスしてないけど)。ポストアポカリプスといえばJGバラードがアポカリプスアポカリプスしてるらしいので今度はぜひ読む所存です。

 正直に言うと、二番目の「ロワーサイドの幽霊たち」は内容がよくわかんなかった。なんでもう一度9.11を起こそうとしたのかが謎(スラム化したから?)。誰か解説してくれ。

 そういえば本書で著者はポスト伊藤計劃だと言われることもあるみたいだけど、伊藤計劃を求めて本書を読むと失望というか、期待外れだと思う。これはポスト伊藤計劃の定義の問題で、1.脳科学を取り入れて人の意識や理性を扱うSF 2.近未来を舞台にして現代の問題点をあぶりだす という二つの定義があるとすると本書は2の方。ただ2の定義に当てはまる本なんて伊藤計劃以前も以後も変わらずあった(ある)わけで、無理やり伊藤計劃に当てはめるのはちょっとなと思う。結局伊藤計劃が面白すぎるのが悪い!。SFを読むごとに読者のうちに立ち上がってくる伊藤計劃の記憶。これも彼が仕組んだ「計画」の一部なのかもしれない。とかいう何の役にも立たない解説が様式化されるかもしれないぐらいには偉大だと、小生は思いまする。

PyQを始めました

 色々一段落したのでいい加減プログラミングをやろうと探してみたけど、未経験者が初心者になる教材はあるのに、その後の教材がなかなかないor見つけにくいことがわかった。あと本の値段も安くはない。
 そこで出会ったのがこのPyQ!なんと一ヶ月3000円で教材がやり放題!タイトルをざっとみたところ応用までやってそうなので入会。とりあえず50問ぐらいやってみたけど内容は写経メインでよさげな感じ。ただプラグインのせいなのか次の問題をやろうとすると一度やった問題に戻るので一手間余計にかかるがまぁ大したことじゃない。
 

単純な脳 複雑な私 の感想

 結構前によんでたけど、二読目したので感想をば。

 前の記事で「つながる脳科学」の感想をかいたけど、あれよりは数倍自分の知りたいことが書いてあった。とにかく脳の不思議なところを門外漢にわかりやすく、それでいて面白さが失われないように解説してる。普通自分が好きな領域の話になると長々と話したくなるのが人の性だと思うけど、実験方法などの過程を必要最小限にして結果と考察に重点をおいていて、退屈な講義にならないように工夫したんだろうなと感じられる。

 自由意志の議論でよく引き合いに出されるリベットの実験も本書は扱っていて、人間には自由意志ではなくて自由否定があるんじゃないかというのはとても興味深かった。

感じる/感じない 自分/自分じゃない みたいな哲学的な話題が満載で、SF読む人なら読んでおいて損はないと思う。そういえばいい加減SFの有名どころを読み進めなければ。

 

つながる脳科学 の感想

 脳科学からみた心の仕組みや倫理について興味があって読んだけど、正直知りたかったことはあまり書いてなかった。

 まず本書の形式は脳科学の専門家がそれぞれ自分の研究をバラバラに語っているので、前の章で解説された語句がまた解説されてうっとうしいということが何度もあった(何回オプトジェネティクスとシナプスの解説でてくんだよ!)。その分の記述をへらしてほかのところに紙面を割いてほしかった。本書はいわば科学者が自分の論文を一般向けに書き直したのを集めた構成になっていて、実験の結果から考察を深めていく感じではなく、実験の手法に焦点が当てられていて、肝心の「心の構成」というところはあまり触れられていなかった。しかも少ないページで解説しようとするので、わかりにくいところも多かった。

 ただ内容としてはそこそこ面白かった。こんな感じで実験やってるんだなーとかわかる。Amazonみたいに星をつけるとしたら星3.5かな?

 

言語学の教室 の感想

 前回「ビックデータコネクト」で一息ついたので、また教養書に戻った。はじめてkindleでよんでみたんだけど、寝っ転がりながらの読みやすさが紙の本と段違いなのと移動中にさっとスマホ出してすぐ読めるのでとても使いやすい。kindle readerを買おうかなとも思っているけど、今のところ不満はないのと、まだこなれてない印象があるのでとりあえず保留中。

 で、「言語学の教室」だけど、とてもわかりやすかった。対談形式になっていて、新しく出てきた概念を掘り下げてから次に行ってくれるので理解しやすくなってる。普通の教科書的構成だと、概念をポンと出して次に行くので、用語が定着してなかったりして、表面的な理解しかしてなかったり、頻繁に戻ったりということが起こるけど、本書はそういうことが少ない。一般人相手に講義したらこんなに立ち止まることはないだろうけど、本書は相手が言語哲学者で、鋭い質問をバシバシしてくれるので、新しい概念を持ち出す意義などがわかりやすい。

 僕は言語学には特にイメージは持ってなくて、そもそも何やってるのかすら想像できなかったけど、今回の読書で大まかな雰囲気はつかめた。読んでいる分にはまぁ面白かったけど、自分がやるのは勘弁したい。言語学はひたすらある言語における法則なり理論なりを探していくのだが、いろいろな事例を広く説明できる理論を思いついても、物理や数学のようにその理論で未だ起こっていない事の予測ができるわけじゃないのがどうにも徒労に思える。ただこういう言語学の知見はコンピュータで言語を解析するとき(冗長な言い方だけど適語がおもいつかない・・・)も使えるんじゃないかと思う。実際に自分でやれはしないけど。

 最近読んだ「戦争広告代理店」とか「虐殺器官」で描かれていたことは(当たり前だけど)言語学で説明できるんだろうと思う。「ethnic cleansing(民族浄化)」が絶大な影響力を持ったことや、逆に戦争の現実を多い隠す迂遠な表現が使われたり(ぱっと例が出てこない)。言語学なんて何の役に立つんだ、とか、哲学なんていらないとか以前の自分は思っていたけど、どんなものでも使う人によって玉にも石にもなるんだなぁ。

 ちなみに、付録についていた対談書き起こしの原文をみて笑ってしまった。脇道にそれまくり。これを本にするのは骨が折れただろうなぁと思う。あと、さらに言語学を学びたい人向けの文献案内が親切でよい。

 

ビックデータコネクト の感想

 最近重い本が続いていたので、普通のエンタメ小説を読んでみた。

 やっぱり藤井さんの小説は面白い。ほんとによく練られてる。正直練られすぎててわかんない部分もある。個人情報の取り扱いが云々とかはわからなかった。読んでるこっちがわかんないのに藤井さんは何をどうして作れたのか全く想像がつかない。

 本書も例によってSFガジェット(現実にもあるけど)がたくさん出てくるわけだが、今作はプログラムとかネット関係の用語を知らないと読むのに詰まると思うので、あまり初心者向けじゃないかも。まぁそこらへんを乗り越えても死ぬほどめんどくさい法律用語が出てくるのでラノベのように簡単には読めない。

 自分の読書順では「公正的~」と「gene mapper」そして今作と、つづいて中国が出てきたわけだけどほんと藤井さんは中国が好きだな。森見登美彦が京都をさんざん荒らしまわってるのと同じで、中国には謎を全部吸収してくれる性質でもあるのか。と書いてみると確かに欧米はルールがちゃんとしてて透明性があるイメージがあるのでやっぱり事件を起こすとしたら中国なのかもとは思った。

 終盤の謎が収束していき、トラブルが続々と発生してくるスピード感も手に汗握ってとても面白かった。