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イミテーション・ゲーム 感想

 とても面白かったです。

 わたしは演技については全く知らないので偉そうなことは言えないのですが、主演の演技がよかったと思います。絶妙なコミュニケーションのとれなさでみてて笑ってしまうところがいくつかありました。同僚が女性を口説く下りとか。あと所々に入る「どもり」や他人の感情をうまく理解できない混乱の演技が自然で(実際はどうか不明ですが)チューリングの特異性を自然に表現しているように感じました。突然研究を邪魔されてたじろいだり、慣れない怒りの表現とか、とても難しいと思うのですが全然違和感なかったですね。

 見てて思ったのですが、いくら天才でもコミュニケーションとれなかったら疎まれそうですね。一緒にいてもその人が天才かどうかはその時点ではわからないですし、ただ意思疎通が下手で自分にうぬぼれているだけと思われても仕方なさそうではあります。

 あと研究職のプレゼンってどうするんでしょうね。出資者に全部を理解してもらえるはずがないし、結果がでるかもわからない。

 チューリングのおかげで戦争が連合国側の勝利でおわったらしいですし、歴史はほんの偶然で変わるということをとてもつよく感じました。また、チューリングの業績は死後50年秘密だったそうですが、チューリングは運よく公開されただけで、ほかにも歴史に埋もれた事実というのはたくさんあるんでしょうね。

  ちなみに劇中ではキーラナイトレイの縦ロールがみれます。縦ロールってホントにあるんですね。

屍者の帝国/円城塔×伊藤計劃 感想(小説)

 かなり難しい本でした。私は一読しただけでは物語の表面すらさらえなかったので二回読みました。

  まず読んで思ったのが文章が読みにくいことです。比喩が使用されているのはいいですが、内容が込み入っててそもそも比喩かどうかわからないということがままありました。そして後で種明かしをするパターンが多く、自分が意味をとれなかった文章を後で解説あるだろ、と流し読みして実は説明済みのことだったっていうのも頻発でした。明言を避けているところも多いので違う解釈をしちゃったり。ハダリーが人造人間だったとか二回読んでも気づかなかったんですけど。今でもわかんないです。でもそれはあなたの読解力がたりなかっただけで作品を貶める根拠にはならないよね?というご指摘はごもっとも。ちゃんと内容に関した感想を書きます。
 全体的な感想としては、難解だけどわかると面白い、です。初読のときは全くストーリーも登場人物の背景も記憶できなかったので理解があやふやでしたが、もう一度よんでみると大まかな展開は頭に入っていたので、細かい読み取りができました。伏線もりもりで忘れたころに明かされるのが多いので追うのが大変なのでメモするか二回読む前提でいくといいです。ちなみに屍者の帝国には色々な人物が出てきますが私が一番すきなのはバーナビーですね。典型的な脳筋キャラなのですが、いちいち言動が面白かったです。そしてワトソンの皮肉交じりの突っ込みも。仲はいいけどお互い憎まれ口をたたいている関係なのが好きです。下着じゃないから恥ずかしくないは笑いました。
 ただ、面白いのは面白いのですが私はどうも設定になじめませんでした。具体的には菌株とか情報の物質化、屍者操作技術とかです。今まで屍者技術があるとはいえ現実的な路線で歩んできていたのに、後から設定が付け足された感がありました。虐殺器官とハーモニーは未来ではあるがあくまで現実として書かれていたので、その二つと比べてしまったのかなーと思います。
 とは言いつつも終盤の、どんどんと自分の意識に疑念が生じてくるあたりはやっぱり面白いです。人類の意思は菌株が作り出したもので、純粋に人に由来する意識は存在しないという話を深めていくところはさすが円城塔だな、と思いました。私だったら「私のこの意思は本当に自分のものなのだろうか」ってかいて終わりですよ。これ以上思いつきません。フライデーが「君には私が見えているのか」とノートに書くシーンがありますがこれはクオリア的な意味で見えているのか、自分が見ているものは本当に自分の意識が認識しているのだろうかという問いを含んでいるんでしょうね。屍者は物を認識できず、生者だけが認識できるとする根拠はどこにあるのか。
 上で読みづらいとか設定後付けとかいろいろ言いましたが、終わり方は非常に好きです。地球一周する冒険を一緒にしてきたと思うほど感情移入してるのに、ワトソンが自分で自分の旅に幕を下ろす寂寥感といったらありません。そして対照的に意識を獲得するフライデー。あとがきまで好きです。賞賛は屍者に、嘲笑は生者に、っていうのが心に来ました。どこが良いのか、他にもいろいろ言葉で表そうと頑張ってみましたが、結局は雰囲気が好きだという話なのでここらへんでやめときます。
 人間の意識っていうメインテーマのほかに「可能なことはいずれ実現される」ってのも小テーマの一つみたいですね。屍者の帝国では(倫理的に禁じられているが)可能なことは~~、と否定的な意味に使われていることが多いです。
 あとカラマーゾフの兄弟の登場人物が出てきますが、これが結構感動しました。カラマーゾフは未完でおわった伝説の小説なのですが、その登場人物が好きな作家の小説で復活とか感動しますよほんとに。続編は色々な想像がされているのですが、その中にロシアに対してクーデターを起こすっていうのがあって、それを踏まえてるという点だけでも興奮しました。
 伊藤計劃とは違うところもありますがとても面白かったです。
 

 

プライベートライアン 感想

 見てる間ずっと手に力入りっぱなしでした。
 プライベートライアンといえば冒頭20分のオハマビーチでの戦闘が有名ですが、実際にみてみるとその生々しさが感じられます。弾をはじいたヘルメットを運が良いといって外して確認している間にヘッドショットされたシーンなんか声でました。
 ネットではプライベートライアンの凄いところは戦争を個人のレベルまで引きずり下ろしたことだ、というのをよく見ます。一般的日本人である私は当然戦争に対する印象は漠然としかないのですが、私みたいな人たちに対して衝撃を与える映画だと思います。
 戦争を個人的なものにしたものは、やはり個人それぞれの描写のおかげでしょう。上の命令に嫌々従う部隊員たちや、人殺しができないアパム伍長など色々な要素はありますが、一番大事なのは人が死ぬ過程とそれがもたらす影響を描いたところなんじゃないかと思います。途中で敵の基地を襲ったため仲間の1人が死んでしまう場面がありますが、あのシーンは非常にリアルでした。拭いても拭いても吹き出してくる血と、助かると繰り返す仲間、見ているしかできないアパム伍長も可哀想です。
 関係ありませんが途中で違うライアンでてくる下りいります?面白かったんでいいですけど。「ドンマイ!」と励ますような固い握手と呆れ顔の隊員には笑いました。
 あと狙撃手かっこよすぎません?カウンタースナイプするところとか塔の上から手信号で意志疎通をしていたり、頼れる相棒感がすごいです。
 見て良かったです。

self reference engine/ 円城塔 感想

 

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

 

  とても綺麗な小説だったと思います。self reference engine を読もうかどうか迷って、もしくは読んでもよくわからず、ネットの書評を漁っている方は「なんだかよくわからん」という感想をあちこちで目にしたのではないでしょうか。私もその一人です。しかしわからないからといって読む必要がないかというとそれは違うのです。

 私が最初に本屋でこの本を見つけて立ち読みしたときは、なんだか小難しいことを並べているだけで中身はなさそうだと思い本棚に戻しました。最初のプロローグを読んでくれればわかると思いますが、文として意味を成しているが文章としては全く意味をとることができません。当時の私は(今もですが)やるべきことの合間を縫って本を読んでいる状況だったのでとにかく手っ取り早く感動をもたらしてくれるものを探していました。そんな状況で言葉遊びのような状態を呈している本を読む余裕などありませんでした。しかし二度目にこの本を立ち読みしたときはなにやらちゃんとしたストーリーがありそうなことが判明。本を選ぶ時間すら惜しかったこともあって結局買うことにしました。

 この選択は正解でした。読んでみると言葉遊びという感想はぬぐい切れませんが、まぁそれでもいいかとなりました。投げやりになって感想を放棄しているのではなく他の点で魅力的だったということですよ。

 まず何を言ってるのかわからないがとにかく面白かったです。多次元宇宙とか無限次元時空間円柱だとか時空爆撃だとか心躍るSF用語がそれっぽい文脈と解説付きで書いてあるだけで楽しかったです。これが知識のない人が書いたのだったら「適当な用語と説明でごまかしてんじゃねえよ」となりますが、因果律の破綻した世界を徹底的に(わかるようなわからないような方法で)描いているのですんなりと受け入れることができました。

 そして思考実験めいてくるストーリーの展開も好きです。今現実に存在している相手が実は絶滅していたり、なにが何やら全く収拾が付きませんが存在しているということや進化しすぎた計算機に対する考察(屁理屈かも?)が何重にも掘り下げられていて、狐につままれている感はあるものの、とても楽しかったです。

 総括するとなんだかわからなかったが面白かったとなります。以前の私なら意味がわからず読み捨てるような感想ですが実際にそういうこともあるのです。まだまだ読み取れていないところがあるのでもう一回読みます。その時は記事を更新するつもりです。

 

追記 

 

 二回目読んだので続きを書きます。最初に書いた感想今読み返すと滅茶苦茶なこと言ってますね。消してもいいのですが戒めとして残しておきます。

 読み返してみるとこの小説はどことなく詩に似てるんじゃないかなと思いました。詩なんて真面目に読んだことがないので想像と漠然とした印象で語るのをお許しいただきたいのですが、婉曲的な言い回しやテンポよく進む(箇所もある)文章が詩的に感じる原因なんだと思います。時間の前後が逆転した世界のせいもあって、読んでる間長い一編の詩を読んでる感じがしました。

 あと比喩がうまいです。たまにグダグダ続く比喩を見ますがああいうのとは違って必要だからある感じがします。比喩での対象の置き換えとか抽象化とか簡単化とかうまい気がします。特に本書ような難解なものでは比喩のありがたみが増します。

 また所々に挟まれるユーモアのおかげでよくわからない場面が続いたとしても何となく面白いという現象が起こります。細かいオチが散りばめられているおかげでただの理屈をこねまわすだけの小説にはなっていません。まさに諧謔を弄んでます。「coming soon」なんかかなり笑えます。恥ずかしながら、初見の時は全く意味が分からず「なんかかっけー」と思って文字を追っていたのですが、二回目だと壮大な自虐ネタだということがわかりました。途中で急に予告編を入れて自分で突っ込むという下手すればダダ滑りのネタを見事に完成させています。そしてなんかかっこいい感じで終わらせます。私の人生で一番カッコいい予告編です。

 円城塔は雰囲気を作ることがかなり上手なんじゃないでしょうか。よくわからない理屈で煙に巻きいい感じの雰囲気で終わらせることがままあります。「フロイト」はその典型ですね。

 また、二周もするとだいぶストーリーがつかめました。ちょこちょこ挟んである伏線とか回収していくの楽しかったです。特に終盤の理解度が違います。「return」なんてほんと感動しますよ。今まで登場人物の一人だと思っていたリチャードが読者と同じ視点まで登っていて、穏やかだけど大事な人がいない生活を受け入れてからのからの奮起とか胸が熱くなります。やはりタイムリープものはいいですね。感情移入がしやすいです。

 

 追追記

 

arark.hatenadiary.jp

 同じような感想をまた書きました。

悪童日記/ アゴタ・クリストフ 感想

 とにかく戦争ものを!と探してたら見つけました。

 

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

 

 結構有名な本らしいですね。私は知りませんでしたが。この本は一切の感情が廃された双子の日記という体をとっているのですが、双子に感情がないわけではなくむしろしっかりとした意志と倫理観をもって行動しているのがわかります。彼らの判断基準となっているのは「愛情」です。(そうですよね?)

愛情といっても一方的に与えられる上から目線の「哀れみ」とはちがいます。

乞食の練習中にもらった品物を全部捨てた場面によく表れています。そういう意味でこの本は愛を探す物語なんて言えるかもしれません。

 私が心に残っている文章をすこし引用します。

 

仕事はつらいけれど、だれかが働いているのを何もしないで見ているのはもっとつらいんだ。(中略)僕らはただ、僕ら自身のことを恥ずかしいと思ったんだ。 

幾度も繰り返されて、言葉は少しずつ意味をうしない、言葉のもたらす痛みも和らぐ 

髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。

お母さんの手紙は、僕ら二人のシャツの裏側に、代わるがわる忍ばせることにした。 

この文章を改めて読むと双子がどれだけつらい生活のなかで精いっぱい生きようとしていたのかがわかります。彼らは意識的に感情を表に出さないようにすることで差別や虐待から自分の身を守っていたのです。

 愛情を大事にする描写はほかにもあります。靴屋の主人が双子のみすぼらしさをみかねて色々なものを上げようとする場面では、彼らは哀れみを感じ取り「ありがとうというのは好きじゃない」といって受け取ろうとしませんが、後にただの同情ではないことがわかると品物をうけとり「本当にありがとう」といって帰ります。

 また、母親の骸骨を屋根裏に飾る場面もそうです。普通の感覚から言えば骸骨を家の中に飾るなんて死体趣味の狂人としか思えませんが、この双子からすればただ母親との思い出を飾っているだけということになります。

 おばあちゃんと徐々に打ち解けていくのもいいですね。最初におばあちゃんとの関係変化がでたのは断食の練習をしたあと

 

「おろかな練習じゃ。そのうえ、体にも悪いわい」

 

と発言するとこだと思います。住み始めたころはあんなに意地悪かったのに・・・・。

 兎っ子という登場人物がいます。初めて読んだときはわからなかったのですが、やぶにらみは斜視で兎唇は口唇口蓋裂を表しているらしいです。つまり障害者です。彼女は最初双子にあったときに誰も自分を愛してくれないと嘆きます。これが双子の同情を買ったのでしょうか、かなり面倒をみます。途中で登場する「従妹」とはえらい違いです。

 主人公の双子は一応双子という設定ですが、物語のほとんどにおいて二人は全く一緒に行動しています。一人は買い物に行ってもう一人は畑仕事とか絶対ありません。「僕ら」を「僕」に変えても違和感がないところが多いでしょう。それだけお互い依存してるし、二人で一つの個としてふるまっています。だからこそ最後の展開が重みを増してくるわけですが、どうしてああなったんでしょうね。ちょっと考えてみましたがあまりいい説明は思いつきませんでした。続編があるのでそれを読めばわかるかもしれません。

 とても印象に残る本でした。事実が書いてあるだけなので難しい表現もなくすらすら読めます。ぜひ読んでみることをお勧めします。

 

 

 

 

高い城の男/ フィリップ・K・ディック 感想

感想

 

 伊藤計劃繋がりで(つながってませんが)読みました。端的に言うと大衆小説になれた私にとっては面白くなかったです。

 

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

 

  私はSFは全く読まないのですが、なんとなくストーリー重視の展開が面白い本というのを想像していました。ですが実際は哲学的な、登場人物の内面に焦点がおかれた作品でした。ストーリーも何か大きな事件が起きてそれを主人公たちが解決するとかいうものではなく、登場人物が自分の内面と向き合い解決したところで終了します。ただし話が練られていないかというと全くそんなことはなく、筋が通っているうえにものすごいリアリティもあります。だからここに書くのは名作を読み解けなかった私の愚痴と言い訳です。

 私は伊坂幸太郎から読書にはまったのですが、高い塔の男のように登場人物がたくさんでてきて段々と彼らの繋がりが明かされていく群像劇ものと聞くと伊坂幸太郎を思い出さずにはいられません。彼の小説はストーリー上に様々な伏線が散りばめて合って、終盤で回収、どんでん返しというのが典型パターンです。

 しかし高い塔の男は登場人物に一応繋がりはありますがそこまで密接にかかわっているわけでもなく、伏線もない。(私が読み取れていないだけの可能性が非常に大きいです。読み取りミスがあったら教えてください。)つまり私にはまだ早かったようです。その代わり心理描写に力が入っていて、作品のテーマも練ってあります。

 あと気になったのが易経の描写。作中では様々な場面で易経という占いがでてくるのですがその説明が細かい。細かすぎる。卦とか爻とか意味わからん占い用語がやたらめったら出てきます。じゃあggればいいじゃんって指摘はもっともで反論もできないのですが複雑そうで調べるのがめんどくさかったです。

 そして説明なしに出てくる固有名詞の数々。高校の世界史すら覚えていない人間としてはどれが実在でどれが架空なのか全く判断が付きません。別に判断がつかなくてもよめるっちゃ読めるのですが、どの組織がどういう目的で動いていて、解説は後でありそうかどうかがわからないので非常にぼんやりとした知識で読まなければならなくなります。ちなみに名前が憶えづらい上にたくさん出てくるのでぼんやりさに更に拍車がかかります。

 色々書いてきましたがつまりは私の努力不足です。隙間時間に読~もおっ!なんて思ってたのが間違いでした。ちゃんと読めた方からすればこんな記事は恥にしかならないと思いますが自分への戒めとして残しておきます。いつか再挑戦したいです。

利己的な遺伝子 要点メモと感想

 

 

概要

 

 生物学界の名著と名高いこの本。前々から気になっていましたが、ついに読むことができました。読んでない人にはどんなことが書いてあるのかがわかるように、読んだことのある人には内容を思い出してもらうために、要点とどこを読めば詳細が書いてあるのかをまとめました。あんまり詳しく書きすぎるとなにか法律に引っかかってしまいそうなのでかなりぼかしてます。要点を全部説明できればあなたは利己的な遺伝子マスターです。

 ちなみに読んだのは増補新装版の第4刷です。

要点

1章


p4,5-この本がなにを主張する本ではないか。
p10-生物の行動原理。
p15-群淘汰論の欠点。

2章

p21-生命のはじまりについての仮説。
p24-進化を起こす仕組み。
p28-最初の細胞の誕生についての仮説。

3章


p33-後天的に獲得した形質は遺伝しない。
p40-遺伝子とは。
p49-自然淘汰の単位。
p52-遺伝子にとって善と悪。
p58-老衰はなぜ存在するのか。
p61-なぜ性が存在するのか。
p63-無駄なDNAが存在する理由。

4章


p67-生物個体の目的。
p71-感覚器が発達した経緯。
p75,p86-遺伝子は実際の行動に直接影響を与えはしない。
p94-コミュニケーションのシステムが進化するときの、ある個体にとっての危険性。

5章

p101-生物には進化的に安定な戦略(ESS)がある。

p114-個体間の全く関係なさそうな非対称性がESSを生み出しうる理由。
p119-順位制が発達する仕組み。
p122-共食いがない理由。
p126-進化とは絶え間ない上昇ではなくて、むしろ安定した水準から安定した水準への不連続な前進の繰り返しであるらしい。

6章

p131-親が子に利他的行動をしめす理由。
p136-姉妹と親子での遺伝的な同一性。
p139-正しい適応のできた遺伝子が残る。
p155-両親の、子に対する利他主義が、兄弟間のそれよりずっと普通に見られる理由。

7章

p170-なぜ卵を産む数に制限があるのか。
p174-縄張り争いに敗れた雄が、その後戦おうとすらせず飢え死にすることもある理由。

8章

p192-子供が餌を一人占めしない理由。

p199-大声をあげて捕食者をおびき寄せる恐喝遺伝子か広まる可能性。
p210-世代間の争いで親と子のどちらが勝つのか。

9章

p214-性の決め方。
p216-雌雄が生まれた理由。

p218-雌雄が1:1である理由。

p232-雌雄の性格の比率はいくつかの平衡点を延々と循環する。
p240-生存に不利になると思われる特徴が発達した理由。 

10章

p257-鳥の警戒音の意義。
p266-つまり社会性昆虫(蟻など)が協力しあう理由。
p280-人間はウイルスのコロニー説。
p281-互恵的利他主義は進化しうる。

11章

p292-文化的伝達は遺伝的伝達の違い。
p296-ミームの登場。
p298-神様というミームはなぜ広まったのか。
p299-ミームを遺伝子的に説明する必要はない理由。
p311-唯一我々だけが利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである。

12章

気のいい奴、つまり互恵的な関係が発達することもある

13章

p386-全ての我々の自身の遺伝子はお互いに寄生しあっているのかもしれない説。
p400-群れではなく個体が遺伝子のヴィークルになる理由。
p411-遺伝子がわざわざ個体を作る理由。

感想

 利己的な遺伝子は読めば名著だということがはっきりとわかります。この本は著者も言っている通り当時の研究をまとめ、一般向けに編集した本です。発行が1976年と古いこともあって敬遠してしまう人もいるかと思いますが、今読んでも新鮮さが失われることはありません。

 この本の主張はとても簡単です。「遺伝子は利己的である」。初めから終わりまでこれです。それだけのことでなぜこんなにも分厚い本ができるかというと、このルールが幅広く適用できるからです。生物の誕生から地球外生命体まで適用できます。ほかにも生物はなぜ死ぬのか、なせ争いがなくならないのかなどなどとにかくすべて「遺伝子の利己性」で説明できるのです。

 また、ミームという概念の発明も本書の特色です。ミームとは簡単に言えば文化版遺伝子なのですが、本書を読んだ後では理解度が違います。

 全体を通して非常に面白い本でした。 長いことは長いのですが、時間を割いて読む価値は十分にあります。

 

ショーシャンクの空に 感想

 amazon prime で無料になっていたので見てみました。前々から「ショーシャンクの空に」は名作だとは聞いていたので興味はあったのですが、実際みてみると大いにうなずける評価です。

 まず見終わってきづいたのが、ストーリーに全く不要なところがないということ。何気ない会話や場面にまで仕込みがされているストーリー構成には驚かされました。終盤では急にでてくる展開が多いのですが巧妙に仕掛けられた伏線のおかげで無理がありません。
 私は最近色々な作品に触れているのですが、名作というのは概してムダな部分がなく、何かその作品をとおして訴えたい、通底したテーマがあるのだと感じました。作品の雰囲気だったりエピソードの一つ一つまで最後のオチにつながっている分テーマの提示に厚みが出てくるのではないかなーと思います。ショーシャンクでは囚人の社会復帰がテーマですが、これは私がいままで全く関心のなかったことでした。未知の分野に触れるのはすごく知的好奇心がくすぐられます。こういう新たな問題提起ができるのが大事なんでしょうね。知ってることを延々語られてもうんざりしますから。駄作に触れる機会もあるのですがやはりみてて新鮮さが足りない感じがします。
 かなり面白かったです。見てない方は見たほうがいいですよ。
 

 

戦争にチャンスを与えよ/エドワード・ルトワック 感想

概要

 amazonで上がってたんで買ってみました。著者のエドワード・ルトワックは軍事の世界で有名な人らしいです。全体を通して「戦争にチャンスを与えよ」と言ってると思っていたのですが、読んでみるともっと広範な意味での戦争論を論じた本でした。目次を一部抜き出してみても

対中包囲網の作り方

尖閣諸島に武装人員を駐留させよ

・戦争からみたヨーロッパ

・もし私が米国大統領顧問だったら

・日本が常任理事国になる方法

といろいろなことを語ってます。普通に面白かったです。

 

感想

  感想を書くにあたって、まず私には全く政治的な知識も軍事的な知識もないことを述べておきます。つまり私の戦争に対する意見にはいかなる根拠も説得力もないということです。
 全体的な感想としては(上でも言いましたが)普通に面白かったです。戦争に縁のない一般人からすればどの章も刺激のある内容でした。
 戦争が平和をもたらすというのはなかなかに新鮮な主張でした。その章のなかでは「人道的介入」の無責任さを例を挙げて示しているのですが、一般人からすればいいことに思える救済活動も実は巡り巡って被救済側に不利益をもたらすこともあるんだなと知りました。
 でも戦争を放っておいていいわけじゃないと思うんですよ。カラマーゾフ風に言えば「子供の一滴の涙より重いものはない」のですから。著者は戦争放置派のようですがやっぱり戦争で苦しむ人もいるんです。だからと言って戦争に介入すると(著者によれば)解決が遠のくというところが悩ましいことではあるのですが。
 本書では他の戦争論も読むことができます。戦争における同盟の重要性は大いに知的好奇心を刺激されました。戦国武将とビザンティン帝国まで引っ張ってくる著者の知識量には目を見張るものがあります。なかには少し引っかかる主張もなくはないですがそれも含めて考えさせられます。ここで私が色々語ってもオリジナルには遠く及ばないので私は一般人が読んでも面白いしということを言うにとどめます。興味がある人は実際に読んでみてください。ただ歴史的な知識がない人は表面的な理解にとどまってしまうので調べながらのほうがいいと思います。

虐殺器官/伊藤計劃 感想

概要

  虐殺器官とは2007年発表のSF小説で、伊藤計劃のデビュー作です。最近アメリカで実写化されることが決まったようです。(wikipedia調べ)
 端的に言うとSF初心者の私が読んでも面白い名作で、読んだ後はなんか頭よくなった気がします。

感想

    まず僕がいいたいのはアレックス。あんまり言及されてませんけどこれカラマーゾフのアレクセイですよね?熱心なキリスト教徒でアレクセイをもじった名前とか絶対意識してるでしょう。屍者の帝国でも確かイワン出てきましたし筆者がカラマーゾフを読んでるのは間違いないです。カラマーゾフの兄弟は続編があることが明言されているのですが、残念ながらドストエフスキーがなくなってしまったため幻となりました。そんな経緯のあるカラ兄の登場人物が時を経て現代によみがえるとか胸熱ですね。
 ドストエフスキー繋がりで言うと、虐殺器官は現代の「罪と罰」とも言えると思うんですよ。罪と罰はおおざっぱにいうと罪を犯した主人公が苦悩するっていうストーリーなのですが、虐殺器官も似たような構造がみられます。痛覚マスキングや感情適応調整を施された人殺しは自分の殺意によるものなのか。任務だからと任務中の殺人を考えないことにして責任をのがれていたシェパードですが、登場人物との対話もしくは死を通じて自分の罪を自覚し、罰を求めるようになります。これは護送列車襲撃後にはっきりとあらわれています。
 また、作中の進化の話ですが、大体「利己的な遺伝子」にのってます。初見では進化とか遺伝子の話が表面的にしかわからず理解があいまいでしたが、利己的な遺伝子を読んだあと虐殺器官を読み直すと進化の話が実感を持って感じられました。
 主人公の最後の心変わりですがこれに関してはいろいろなサイトで考察されてますね。本文中ではアメリカで虐殺を起こすことで自分の罪を背負おうとしたと書かれていますが伊藤計劃のブログでは他の解釈もあることがほのめかされています。
 そもそもなんでアメリカで虐殺を起こしたのか考えてみます。自分としてはジョンポールの意思を継ぐことで自分を罰しようとしたんじゃないかなーと思います。ジョンポールは自分の罪を認め完全に理性的な判断で虐殺をしたことが度々強調されていますがこれは自分の罪から逃げていたシェパードとの対比なんだと思います。ルツィアとの最後の会話でジョンポールは自分の罪を告白することを決めますが結局殺されてそれはかないませんでした。シェパードも「色々なものがはっきりと見える気がするんだ」と言った先のこれですからね。ルツィアの遺言をかなえられなかった自分への罰、そして復讐としてアメリカを混沌に陥れるというのは十分あると思うのです。
 もう一つはアメリカに死者の国を作ろうとした説。これは他の方の解釈ですが、こっちのほうがしっくりきます。「歯を食いしばってアメリカを混沌に突き落とすことにした」(うろ覚え)とか絶対シェパード思ってないでしょう。

 全体として本当に面白い小説でした。友達二人にも読んでもらいましたがどちらにも好評でした。ゼロ年代ベストSFの名は伊達じゃありません。ぜひ読んでみてください。